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  ダナイード、とわたしは世界に呼びかけて八月のきみの汗に触れたり
                             大森静佳『カミーユ』


 6月24日、京都の出町座という小さな映画館の一室で、大森静佳の『カミーユ』刊行記念、大森静佳と林和清の対談「短歌をよむ、映画をかたる」というトークイベントが開催された。
 歌集『カミーユ』には「カミーユ・クローデル」という1988年のフランスの映画をベースにした作品が多数掲載されているが、私はこの映画を観たことがなく、歌集を読みきれずにいた。が、わからないなりに迫ってくる勢い、いや狂気のようなものを感じ、どこか謎めいたところに魅了されていた。
掲出歌もそんな歌のひとつだった。ロダンの彫刻作品である「ダナイード」は、寂しそうな苦しそうな女性の背中の彫刻である。その様相から「ダナイード」はわたし(作者)の淋しさや苦しさであると感じていた。背中ゆえ自分では見えない気づかない淋しさかと。
 このトークイベントで、映画「カミーユ・クローデル」について、そして壮絶な「ダナイード」の背景の物語を聞き歌の印象は少し変わった。謎が少しとけた気はするが、謎は謎のまま楽しむのも読みのひとつだろう。
 林氏は、大森氏の歌の作り方を狩猟的と言う。「狩猟採集」の狩猟。採集が自分の欲しいものを集めて来るのに対し、狩猟は獲物に向かって突き進むタイプだと。そこに私が彼女の作品に感じた迫力や狂気が潜んでいるのかもしれない。 (水甕 加藤直美)


  Call Me By Your Name(君の名前で僕を呼んで)   大森静佳 
   
   まなざしが共鳴しあう 青すぎて空を空ともおもえぬ日々に
   追いつけぬ心に夏のただなかをティモシー・シャラメのクロールがゆく
   ピアノの音ひとつひとつが弾力だ 微熱を帯びてこれは光だ
   骨格の隙間にくるしい花が咲き抱きあうたびにぜんぶ破れる
   何ひとつ忘れないっていうことはアプリコットの果肉の苦さ
   葬るな、痛みを 痛みの眩しさを 夜明けのプールに足をひたして
   あたたかな火を見つめつついつまでもあなたの名前が音楽だった