「パナマ文書、ウィキリークス、プーチン、習近平、ジョン・ル・カレ、モサック・フォンセカ、ジョン・ビンガム、ヴィヴィアン・グリーン……」帯には、一つだけで一冊になりそうな固有名詞が、ずらりと並ぶ。ページを開くと、体制のなかで生きるしかない個人の、生きるための、または魂の自由を得るための戦いが、スピード感あるタッチで描かれている。
「敵を知り、己を知れば、百戦殆うからず」とは孫子の言葉だが、第二次世界大戦も、イラク侵攻も、トランプ大統領誕生も、砲火を交えない情報戦ですでに優劣が決していた。
そこで暗躍するスパイたちの話である。
国家権力を相手に、命を懸けてつく「嘘」のめくるめく輝き。虚実定かならぬ日常をおくるスパイにとり、いまここに在るということの「真実」。己自身をも騙し、人に真実の感動を与えるホンモノの「嘘」。それが世界を動かす「真実」。……何が真実で何が嘘だか分からなくなってくる。
体制の枠の中にありながら、なんという自由であろう。なんという孤独であろう。
或いはスパイとは、生まれる前からそのように生きることを定められているのかもしれない。


うたかたの世界を紡ぎだすロニーの呪術力は、間違いなくホンモノだった(P94稀代の詐欺師ロニーの知人)

「そう、私は嘘つきなのです。嘘つきとして生まれ、育てられました。そして生きんがために嘘をつき続ける世界で鍛えられ、いま小説家として嘘つきを実践しているのです」(P100ジョン・ル・カレ)


物語が書かれた時点ではいまだ現実のものになっていない出来事をフィクションだとして描き、近未来にそれが現実のものとなる。これこそがインテリジェンス小説なのである(P124佐藤優) 

「最後の勝負は、いかに敵の懐深く飛び込み信頼を勝ち取れるかにかかっている。人間力を駆使して持ち帰る情報(インテリジェンス)だけが、ダイヤモンドのような輝きを放つ」(帯より/P248)

(水甕岡崎支社 木村美和)