春日いづみ評より~

  花散らす雨の重たさ 卵管を静かに下る卵の老いゆく(P7)
  春の湖(うみ)に映る三日月遥かなる象形文字の生れし月の夜(P17)

 17年間の歌を再構成された歌集。構成の緻密さを感じた。月と桜という日本人が親しみを持つモチーフを全体に置いている。女性ならではの身体感覚も特徴。

  針使ふ手元明るく照らされて丸めた背なは闇に預ける(P40) 

 一番好きな歌。手元は照らされているが、背は闇に預けている、仕事をしながら仕事にまぎれない自分がどこかにある。その自分を今は闇に預けているという発想、それをうまく表現している。仕事の歌、いきいきしている。

  乾いたものばかり息づく博物館にあなたの息の湿りゐること(P22)

 表現の巧みさを感じた。博物館に置かれているものは、悠久の時を越え、まさに乾いたものばかり。そこに、それを見る人間の生の肉体。それも最も身近な〈あなた〉の息。

  きつねうどん紅葉の寺に味はへば舌の先よりきつねめきたる(P105)

 場面設定の面白さ。紅葉は一本や二本ではない。人の心を高揚させるような場面で、人を化かす狐めく、そういうことが起こってもおかしくないような場面の設定。

(水甕岡崎支社 木村美和)