ヨーソロー!と大声だしてみたかった 泣き顔みたいな雲を見上げる
                      江戸雪「抱擁」

よう そろ [1] 【宜・良候

〔「よろしくそうろう」の転〕
転舵のあと,船が今向いている方向へ,または指示された方向直進せよという言葉。 「一五度-」
「よろしい」の意で船乗りが用いる語。また,囃子詞はやしことば
(https://www.weblio.jp/content/ようそろ)

1首だけで読むと、場面が幾つか想定される。相聞のようにも読めるし、あまり主張することのなかった自身を振り返る場面とも読めよう。
しかしフェミニズムの色濃い本連作中にこの歌を読むとき、作者の中に在る男性性と女性性とが絡み合う心の叫びとして、鮮やかに一首が立ち上がる。
「ヨーソロー!」と大声を出すことは、ついに叶わず、〈だしてみたかった〉という仮名表記の優しさで空を見上げる。諦念と慈しみが混ざる表情で、空を見上げる作者。                                               
うつろいやすく、あまりにも儚い雲に己を投影した〈泣き顔みたいな〉作者の顔が目に浮かんだ。

                             (木村美和)