のらねこ
「のらねこ歌会フリーペーパーvol.3」より。

  長い指をすこし握った葉桜を見上げたどこにも行けなかったね
                      (嶋田さくらこ「薄紅」)

 せつない。二人の関係も、背景も分かりませんが、二人が今、葉桜を見上げて立つこの場所や、そこに辿り着くまでに流れた時間が、かけがえのないものであることが伝わってきます。長い指の持ち主は、恋人かもしれない。認知症か、記憶を失った人かもしれない。夢破れて呆然と立つ人かもしれない。なみだが出そう。

  
  見にいくとかなり本気でスクワットしている君だ この雨の中
                       (久哲「別棟家族庵」)

 めっちゃストイックな君だなぁ。昨晩、うちの方でも結構ひどい雨が降り、短時間でばりばり雷まで鳴りましたが、あの雷のなかでもやってるんだろうなぁ。182、183、184、……うわあああ。〈見にいくと~君だ〉という奇妙な書きかたで、がっつり君をクローズアップ! 好きなんだろうなぁ、〈君〉のことが。頑張る人、応援します!

              
  いつまでもミニスカートじゃいられない手折らずに見てるあなた馬鹿なの?
                     (なつお「僕の百人一首」)

 素直で可愛い彼女が目に浮かびます。幼く見えましたが、実はそこそこお姉さまでちょっと焦る年齢なのかもしれません。〈手折らずに〉の古語が入ることで、一首に重みが加わり、〈あなた〉の人柄へも想像が及びます。このような ↓ 歌と併せて読むのも面白いと思いました。個人の思いは時代を作りもし、時代に流されもします。今を読み、今を問いたい短歌でした。

  摘まるるものと花はもとよりあきらめて中空にたましひを置きしか
             (川野芽生「Lilith」第二十九回歌壇賞受賞作)
  淡黄のめうがの花をひぐれ摘むねがはくは神(旧字)の指にありたき
                            (葛原妙子)

                               (木村美和)