点字を習い始めてしばらくになるが、不勉強な私はなかなか上達しない。そんな折、水甕選者、藤川弘子先生より『炎の音』-小森美恵子の歌と人―(昭和44刊)をお借りした。86ページの薄い色褪せた冊子は、私の手にずしりと重い。

小森美恵子は大正11年生まれ、17歳の時に失明する。女学校の恩師松田常憲に「盲の歌をよみなさい。盲でなければよめない歌をよみなさい」と諭されたと記されている。

そして、日本で初の点字歌集『冬の花』を刊行し、第1回水甕賞を受賞する。

 

 盲吾れより諦めのよき黄金虫なり手に伏せ居れば丸く動かず

 白き蝶が汝れにとまると云ふ時に母はこよなくやさしき声す

 炎の音を告げつつ落葉燃ゆれども血潮静めて生きねばならぬ

 

さらに、本書で美恵子はこのように述べている。

大歌人茂吉にも晶子にも詠めなかった〈盲しいの歌〉をつくろうと思ったとき、盲目に生きることに誇りすら感じたのです。(略)盲しいでなくては詠めぬ歌を探しもとめて、私の耳は静寂の奥から何かを聞こうとし、見えない肉眼すら活き活きといつも見つめていました。盲女の孤独感が胸を押しつぶすときでも、そのような私を歌にする心で受けとめているもう一人の私がいました。

 

盲人というリアリティと豊かな詩情、見えない故に研ぎ澄まされた鋭い感性、そして美恵子の強靱な精神力に、私は打ちのめされた思いである。

(水甕  加藤直美)