水媒花

みんなで綴る短歌ブログ。

このブログで、共に短歌を学び、短歌で遊べたら幸せです。
宜しくお願いします。

《このブログでやりたいこと》
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②学びの共有 ~研究発表、短歌イベント参加レポート、読んだ歌集の感想など~
③交流    ~告知やちょっとした日常風景、作品など~
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2018年07月

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  知の巨人の異名を取る佐藤優の著書です。
「旅文学の新たな金字塔」 とありますが、読みようによっては、教育書であり、青春小説であり、哲学・宗教入門書であり、国際関係概論でもある、読み応えある内容でした。


 1975年、15歳の作者()は、高校入学祝として両親から一人旅をプレゼントされます。共産圏であるソ連・東欧への42日間の一人旅。両親には相当勇気のいる決断だったことでしょう。多くは登場しませんが、息子とのかかわり方の随所に、信念と愛情、そしてわが子といえども一人の人間として敬意を払う姿勢を感じました。


優は、進学校で、応援団、生徒会、文芸部を掛け持ちしています。先生も生徒も、大学受験のことだけを考え、「それゆえに」、大学受験について一言も語らない。英語も数学もひたすら丸暗記という授業。優は、学校生活に息詰まりを感じ始めています。一方、独学で百科事典や思想史を調べ、ハンガリーにペンフレンドを持ち、ロシアの情勢や言語を学ぶ。旺盛な好奇心と探求心で実に多くのことを吸収しています。旅行会社や大使館へも自ら足を運び、周囲の助けを借りながら旅行の準備を整えました。


 日本とは社会体制の異なる国々
で遭遇したさまざまな出来事が、文化の違いや、国民感情の機微と共に、活き活きと伝わってきます。優は、15歳と思えないような豊富な知識を持ちながら、それに縛られない純粋な目で、物事をよく観察し、人と積極的に交り合おうとします。そして素直に人の話に耳を傾けます。
 そうして肌で感じた事柄は、恐ろしいこと、悲しいことも含め、大変興味深く、一息に読み進めました。知ることは愛することにつながります。世界のどこで、どのように暮らそうとも、人と人とは通じるものの在りそうな気がしてきました。

本文より、印象に残った台詞を記します。


「左翼系の雑誌を読むのも、それはそれでいいです。ただ、そのときは同じテーマについて、『文藝春秋』もきちんと読んでおいた方がいい」 (上P44 本田さんのお母さん)

・「あの人たちは、優秀よ。ただし、世の中を批判的に見過ぎている。(中略) 男の子は世の中の隅に行くことを考えるのではなく、正面から立ち向かってほしいの」 (上P45 本田さんのお母さん)

・「ソ連の主張に同調する必要はまったくない。(中略) お互いの利益になる分野を積極的に拡大していくことが重要だ。(中略) お互いにもっと知る努力をするという意識改革が必要だ」 (下P77 篠原さん)

・「(前略) 結局、教師が学生に伝えられることはほとんどない。教育とは関係に入ることなのだ。師弟の関係を構築することができれば、それで十分なんだ」 (下P430 同志社大学堀江先生)

・「ほんとうに好きなことをしていて、食べていけない人を私は一度も見たことがありません」 (下P431同志社大学堀江先生)

・「いい選択をしたわね。面白い人生になるわよ」 (下P434 YSトラベル舟木素子さん)

                                               (水甕岡崎支社 木村美和)

                                                                                                              
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脱がしかた不明な服を着るなってよく言われるよ 私はパズル
古賀たかえ(穂村弘『ぼくの短歌ノート』講談社、2015年)

 友人が「短歌をやってみたい」と言い出した時、入門書を数冊買って目を通してから貸した。その中でも『ぼくの短歌ノート』は良書だった。
 私は穂村弘の熱心なファンではないし、彼のエッセイも殆ど読まない。だが、この本で発揮される彼の知識量や作品解釈は素晴らしい。明治以降の有名無名の歌人たちの歌をたくさん引いて、それぞれに短くも丁寧な解説を添える。
 この本の帯には、掲出歌が堂々と載せられていた。「え?!短歌ってこういう感じで書いちゃっていいの?」と思わせる、日常的な語り口と日常的な場面。だけど、きちんと定型を守っているし、よく読むと一字分の空白と結句<私はパズル>には、男たちの傲りに釘を刺す彼女の自尊心が表現されている。この歌は、短歌を知らない人を短歌へと導く短歌だ。本を偶然手に取った人が帯の歌で短歌にハマる、ということも多かっただろう。今年6月に文庫版が出たが、残念ながら帯にはこの歌は載らなくなったそうだ。
 友人は寡作で結社誌への投稿も途切れがちだが、のんびりと短歌を詠んでいる。
 
(水甕 重吉知美) 

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脱ぐたびに膚(はだ)がこぼれる鱗粉がぜんぶとれたら蝶は飛べない
エレベーターのなか目を閉ぢる行き先は押さずに立つたまま少し寝る
                         (水甕岡崎支社 木村美和)


水甕長崎支社「あじさい第36号」を読みました。
 作品集や歌集評などのほか、水甕先人の研究として特集「加藤将之を読む」や、会員が揃って地元を見つめる「長崎を詠む「出島」」、また「新米ママ、子育てまっ最中」など、つかのま長崎の風に触れるように楽しく読ませていただきました。

沈黙というを超えたるかなしみもあるべし ひと日言葉を忘る     
                       小畑庸子

 この歌を読むまで考えたことがありませんでしたが、沈黙の状態と、言葉を忘れた状態とは、異なるようです。沈黙とは、いわば行き場無く、声にならない言葉に満ちた状態なのかもしれません。深い悲しみの伝わる歌でした。

   雨もよいの空を一羽の鳶の舞う 耳を塞ぎし言葉に屈す      
                       荒美津子

 ここでも言葉。言葉は無抵抗に耳に飛び込み消化される、あるいは通過するものと思っていましたが、〈耳を塞ぐ言葉〉というものがあるらしい。身体が必死に抵抗を試みるのでしょうか、あまりに重く衝撃的な言葉に、他の何も耳に入らなくなる、それに屈する苦しみ。雨の空高く、飛ぶ、のではなく「舞う」と表現された、鳶の様子に作者の姿が重なります。

   十歳の男の子に何を求めるか千二〇〇字の枡目の広がる      
                       河野里枝

 こちらは強いられる言葉です。単なる生みの苦しみ、というものではなく、「おとなの求める言葉」で1200字を埋めなくてはならない。それも10歳の男の子とは、自分の意志を持ち、大人に対い、己の力を試したい時期ではないでしょうか。連作『飛ぶ教室』では、この歌を含めた10歳の男の子にまつわる歌が、『飛ぶ教室』、自身の幼い日々、ヒトラー、現在のニュースを織り交ぜ展開されています。15首の連作でしたが50首ほどで読みたくなる内容でした。
 各人の言葉に向かう姿勢から多くを学んだ気がします。
                                                      (水甕岡崎支社 木村美和)
                                                                        

蓮の茎するりとのびてその先の筆のようなる蕾のあおし
藤田千鶴(『ととと』No.9, 2018.6.24) 


 水面から<するりと>伸びた茎を上方へと見ていくと、まだ花の開かないつぼみがあった。それだけの歌だが、こちらの視線を導かれたように感じられて、面白い構成だ。
 また、<ようなる><あおし>という文語がハスという植物の佇まいに合っており、効果的である。
 掲出歌は、三人の歌人によるネットプリントから。

(水甕 重吉知美) 

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