真中朋久評より~
  
  香りつつひと夜に散りし木犀の金の環めぐらせ人を拒みぬ(P175)
  香を持たぬはこゑ持たぬこと 柿の実の淋しき重さ籠に盛りゆく(P177)
  
 歌集を通し、環とか金色の物の主張が全体に亘っているようだ。二首目は、一番好きな歌。木犀の香りに対し、柿の実は他の果物のような香を持たない。それは声を持たないことなのだという捉え方が新鮮。

  黒糸より黒き喪服の黒の色死は生よりも僅かに暗い(P41)
 「しとしと」と教へるゆゑに六月の雨「しとしと」と聴く耳育つ(P96)

 仕事の歌の手触り。細かい具体に目が行くことが歌の世界をちょっとずつ良くする。〈死は生よりも僅かに暗い〉までは言わなくていいか。二首目は、気象予報士という仕事柄、注目した。「しとしと」は東京の方。関西の梅雨はわりとしっかり降る。仕事をしていると、または専業主婦なら主婦として当たり前になっているものに気づく。「しとしと」という言葉に私たちは捕らわれていると気づく。

  木の椅子の木目はとても怖かつた父の胡坐(あぐら)は妹の席(P130)

 長女気質の、つつましさや人の様子を見る視線。自分が環の中に入れず、あるいは自分の環に誰かを上手く入れられなかった。直接触れずに、ちょっと距離を持ちながら、嗅覚など微かなものを感じて世界を見ている。

ひとまずここまで。

(水甕岡崎支社 木村美和)