わが意思にかかはりもなき樹々の群みどりを重ね日々に明るむ   萱野博道

樹々の明るさ、力強さと内面のかげりの対比がさらりと詠まれていて惹かれる。

  木のベンチ取り外されて一人ずつの椅子が列びぬ駅のホームに   諸井敦子

読者がそれぞれに持っている木のベンチをめぐる思い出を、なつかしく感じさせてくれる。
 
  巌の穴に頭(づ)をさしこめば臭ひたつ二〇〇〇年余を培かふ黴か   太田美千子

思わず顔をしかめてしまうような臭いや湿気をリアルに感じる。

他にも気になった歌をいくつか引いてみる。
  くさめひとつひとりの部屋に吸ひこまれ夜の静寂のさらに深まる   藤田正代
  さうなのと聞かれて困るさうならばさうなんでせうさうしときませう   篠田理恵
  故郷の図書館南向きのテラス今もふたりの空気ふくらむ   豊増美晴
                                 (幻桃 江口美由紀)