五十年つながず過ぎし夫の手の麻痺するをとり花のもと行く
藤田正代(『幻桃』2018年7月号)


 あるご縁で短歌結社・幻桃の結社誌7月号をご恵投いただいた。全国大会の特集が組まれ、その歌会や黒瀬珂瀾氏の招待講演が記録されている。荻原裕幸氏の連載や会員のエッセイなど、散文も充実している。特に、各地域の歌会の記録がしっかり報告されていて、歌会に力を入れている結社だと感じた。自分の所属以外の結社誌を読むのは良い刺激である。
 掲出歌はテーマを持つ連作十首の最後の一首。連作の中で重要な意味を持つが、一首取り出して読んでもその意味は十分に理解できるだろう。夫の突然の麻痺がきっかけで、おそらく初めて手を繋いだという夫婦。彼女が彼の手を取るのはもちろん介助の為なのだが、二人は何を思っただろう。気恥ずかしいか、それとももっと早く手を繋いでいればと後悔したか。彼の方はそれどころではないかもしれないが、連作を通して読むと彼女の存在が彼の麻痺による心細さを支えているのが分かる。

泥のやうに目覚めてをれば麻痺の手を冷たくわれに重ねてきたり
藤田正代

 私は十年足らずで結婚生活を終わらせた。これからパートナーができても、五十年も一緒にいられることはないだろう。だからこそ、この二人には、リハビリが成功した後ももっとずっと長く手を繋いでいられるようにと願う。

 他に、気になった作品を挙げてみる。
首もとのネッカチーフは赤だったモノクロ写真の母が微笑む  岩崎勢津子
だいぢやうぶオーレリアンの庭の樹の葉うらにねむるよ蛹になつて  太田美千子
雨上がりの陸橋越えて畦道をどうもどうもと軽トラが行く  江口美由紀
鳥は雲になって畑のあぜ道に重いあたまの水仙あまた  豊増美晴
柴犬と駆けし堤にけふひとつ白きたんぽぽ風にそよげり  棚橋和恵


(水甕 重吉知美)