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  知の巨人の異名を取る佐藤優の著書です。
「旅文学の新たな金字塔」 とありますが、読みようによっては、教育書であり、青春小説であり、哲学・宗教入門書であり、国際関係概論でもある、読み応えある内容でした。


 1975年、15歳の作者()は、高校入学祝として両親から一人旅をプレゼントされます。共産圏であるソ連・東欧への42日間の一人旅。両親には相当勇気のいる決断だったことでしょう。多くは登場しませんが、息子とのかかわり方の随所に、信念と愛情、そしてわが子といえども一人の人間として敬意を払う姿勢を感じました。


優は、進学校で、応援団、生徒会、文芸部を掛け持ちしています。先生も生徒も、大学受験のことだけを考え、「それゆえに」、大学受験について一言も語らない。英語も数学もひたすら丸暗記という授業。優は、学校生活に息詰まりを感じ始めています。一方、独学で百科事典や思想史を調べ、ハンガリーにペンフレンドを持ち、ロシアの情勢や言語を学ぶ。旺盛な好奇心と探求心で実に多くのことを吸収しています。旅行会社や大使館へも自ら足を運び、周囲の助けを借りながら旅行の準備を整えました。


 日本とは社会体制の異なる国々
で遭遇したさまざまな出来事が、文化の違いや、国民感情の機微と共に、活き活きと伝わってきます。優は、15歳と思えないような豊富な知識を持ちながら、それに縛られない純粋な目で、物事をよく観察し、人と積極的に交り合おうとします。そして素直に人の話に耳を傾けます。
 そうして肌で感じた事柄は、恐ろしいこと、悲しいことも含め、大変興味深く、一息に読み進めました。知ることは愛することにつながります。世界のどこで、どのように暮らそうとも、人と人とは通じるものの在りそうな気がしてきました。

本文より、印象に残った台詞を記します。


「左翼系の雑誌を読むのも、それはそれでいいです。ただ、そのときは同じテーマについて、『文藝春秋』もきちんと読んでおいた方がいい」 (上P44 本田さんのお母さん)

・「あの人たちは、優秀よ。ただし、世の中を批判的に見過ぎている。(中略) 男の子は世の中の隅に行くことを考えるのではなく、正面から立ち向かってほしいの」 (上P45 本田さんのお母さん)

・「ソ連の主張に同調する必要はまったくない。(中略) お互いの利益になる分野を積極的に拡大していくことが重要だ。(中略) お互いにもっと知る努力をするという意識改革が必要だ」 (下P77 篠原さん)

・「(前略) 結局、教師が学生に伝えられることはほとんどない。教育とは関係に入ることなのだ。師弟の関係を構築することができれば、それで十分なんだ」 (下P430 同志社大学堀江先生)

・「ほんとうに好きなことをしていて、食べていけない人を私は一度も見たことがありません」 (下P431同志社大学堀江先生)

・「いい選択をしたわね。面白い人生になるわよ」 (下P434 YSトラベル舟木素子さん)

                                               (水甕岡崎支社 木村美和)